
住宅街にほど近いところに、農地があります。
住宅街の住民などが、その農地の会員になり、年会費を払います。
その年会費を資金として、ちゃんとしたプロ農家による農業が行われます。
会員は年会費を払うかわりに、農場でできた農産物を定期的に受け取ります。
地域の人々にとっては、地元の農園の作物を食べられるのが楽しみというわけです。
こうした仕組みを、CSAといいます。
CSAとは「コミュニティ・サポーティッド・アグリカルチャー(Community-Supported
Agriculture)」の略です。
直訳すると、
「地域に支えられた農業」
という意味になります。
この仕組みでは、農家の収入は年会費によって賄われているため、安定します。
豊作や不作による収入変動がありません。
豊作や不作のリスクは会員(おもに地域住民)が負担するわけですが、
* 大勢で負担するため1人あたりの負担が少ない
* 地元の農業を応援する感覚で年会費を払うため、不作でも納得できる
という理由で、リスク負担に対する抵抗感も少なくなっています。
つまり、農業経営につきまとうリスクを、コミュニティ全体で負っています。
おかげで農家は安心して農業に集中できます。
前述したようにCSAで農業を担うのはプロ農家ですから、できた農作物の品質には問題がありません。
CSAの中には、観光やグリーン・ツーリズムの対象になっているところもあります。
旅行者が農作業を手伝いにやって来たり、敷地内をガイド付きで散歩したりします。
CSAは現在、北米に1000か所以上、存在しています。
住宅街の一角に農地がある、これがCSAですが、住宅地が先にできて農地が後にできたケースは少ないようです。
多くは、農地がかねてから存在しているところに、人口が増え、住宅街ができています。
人口が増えてにぎやかになったのはよいのですが、ひとつ問題が起きました。
肥料や家畜などのにおいです。
このにおいを嫌い、去っていく住民もいました。
しかし農業に理解のある住民は残りました。
彼らは、この農園を応援するようになりました。
これがCSA の始まりです。
すると、農業を応援したい人たちが近所に引越ししてくるようになりました。
「CSA は環境に優しい街づくりに貢献している」
ということで、農園のあるコミュニティのイメージが良くなり、さらに人口が増え、
農園を訪れる観光客も増えました。
すると、土地の値段が上がりはじめました。
いまではアメリカでは、
「CSA がある街は土地の値段が上がる」
と言われるようになっています。
そのため、不動産のデベロッパーも、CSAを作りたがる傾向があるようです。
また、土地の値段が上がるのは住民たちにとっても喜ばしい(資産価値が上がる)ことですので、そうした実利的な意味でも、彼らはせっせと農場を応援するわけです。
住民が地域の農場を応援するという考え方は日本にも存在しています。
CSAは日本で生まれたアイデアが、アメリカで広がったとも言われています。
農業を応援したい、という気持ちは、もともと農耕民族である日本人のほうが強いかもしれません。
しかし、日本では「住民の資産価値を上げる」というところにこの仕組みを結びつけることができていません。
アメリカは、それができました。
農業を応援するという「心情的な価値」に加え、実際の資産価値を上げるという「経済的な価値」まで生み出してしまうところが、アメリカの風土の力強いところだと思います。

- 2010/12/17 アメリカ食通信Vol.11 アメリカの食養生「ナチュロパシー」
- 2010/10/20 アメリカ食通信Vol.10 じつは観光名所? ホールフーズ・マーケットの楽しみ方
- 2010/08/23 アメリカ食通信Vol.9 CSA (Community-Supported Agriculture)
- 2010/05/28 アメリカ食通信Vol.8 アメリカの食育
- 2010/01/22 アメリカ食通信Vol.7 「中食」と「内食」のはざま
- 2009/11/11 アメリカ食通信Vol.6 地元で作られたものを食べる人
- 2009/09/11 アメリカ食通信Vol.5 マーケティングの国のワイン
- 2009/07/13 アメリカ食通信Vol.4 パワーフードを生み出す国アメリカ
- 2009/05/11 アメリカ食通信Vol.3 多民族国家の料理創造力
- 2009/03/12 アメリカ食通信Vol.2 農業を「経営すること」をアメリカに学ぶ
- 2009/01/09 アメリカ食通信Vol.1 大統領の食卓