
「食育の歴史」について語るとしたら、その最大の事件は「マクガバン・レポート」ではないでしょうか。
マクガバン・レポートとは、1970年代後半に上院議員(当時)のマクガバン氏が連邦政府および議会に提出した一連のレポートを総称したものです。レポートのなかでマクガバン上院議員は、当時の食習慣を変えない限り、肥満人口が増え、多くの国民がガンになると警告しました。その結果、アメリカ政府は栄養学にもとづいた政策をたて、国民の食生活を変えるための努力を始めます。
アメリカが肥満人口の増加を気にしはじめたのは100年も前のことです。
また、肥満人口の増加の原因がふだんの食習慣にあるらしいという認識は、当時からすでに有識者のあいだにあったようです。
たとえば1907年に、エール大学のチッテンデン教授という人が「ヒトの栄養」という本を出し、アメリカのホワイトカラーの人々がカロリーを摂りすぎていることを警告しています。
しかし政府レベルで何らかの対策がとられるようになるには、マクガバン・レポートの登場まで70年も待たねばなりませんでした。
その間、アメリカは2度の世界大戦を経験しています。戦争が終わって社会が安定するまで、国民の食習慣が政府や国会で議論されることはなかったといえます。
マクガバン・レポート以降、アメリカ政府がたてた政策にはこういうものがあります。
■国民の健康増進のための一連の政策に「ヘルシー・ピープル」という名前をつけ、10年ごとに政策を見直すことを今も続けています
■国民の食事内容を改善するため、何を食べたらよいか、何を控えたらよいかを説明したガイドブックを発行しています
■同じく国民の食事内容を改善するため、何を食べたらよいか、何を控えたらよいかが一目でわかるピラミッド状の図案を発表しています※1
■国民に果物や野菜を積極的に食べる習慣をつけてもらうため、「ファイブ・ア・デイ」という国民運動を支援しています※2
■連邦政府と州政府が協力し、各地の学校で、子どもたちに朝食を提供するプログラムが実施されています。
■USDA(アメリカ農務省)が中心となり、全米各地の学校で、子ども向けの栄養教育が行われています。
※1、かつては「フード・ガイド・ピラミッド」と呼ばれ、現在は「マイ・ピラミッド」と呼ばれています。
※2、現在は「Fruits & Veggies-More Matters!」というスローガンに代わりました。
国民の食習慣を変えるために国家が本腰を入れた、というのは、アメリカが最初でした。
その後、先進国各国も同じような政策を行うようになっていますが、その内容はアメリカに学ぶところが少なくありませんでした。
たとえば日本政府は
■国民の健康増進のための一連の政策に「健康日本21」という名前をつけていますが、これはアメリカの「ヘルシー・ピープル」を参考に立案されたものです。
■国民の食事内容を改善するため、何を食べたらよいか、何を控えたらよいかが一目でわかるコマ状の図案(食事バランスガイド)を発表していますが、これもアメリカの「フード・ガイド・ピラミッド」を参考に考えられたものです。
このように、「マクガバン・レポート」は先進諸国が食育に国家レベルで取り組む
きっかけとなっています。
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