
毎年11月の第4木曜日は、サンクスギビングデイ(感謝祭)です。
アメリカでは通常、当日の木曜日から週末の日曜日までの4日間が、休日となります。
いまから300年前、ヨーロッパから北米大陸に移住した人々が、ネイティブアメリカンの力を借りながら、苦労して農業を営み、秋の収穫(神の恵み)を感謝したのが始まりとされています。
その意味で、サンクスギビングデイ(感謝祭)は1年でもっとも農業に関係の深い祝日になります。
さて、現代のアメリカは世界最大の食料生産国となっています。
広大な土地を利用し、機械化された大規模農場によって農業の大部分が営まれています。
その生産力はというと、以下のようになっています。
* とうもろこし生産量は世界の42パーセント
* 大豆の生産量も世界の33パーセント
* 小麦の生産量は世界の9パーセント
* オレンジの生産量は世界の8パーセント
(国際連合食料農業機関(FAO)の2007年統計より)
苦労して農業を営んだ300年前の人々が、いまのアメリカの農業の姿をみたら、さぞかし驚くことでしょう。
...このように書くと、いまや小規模な家族経営的な農場はアメリカに存在しないかのように見えます。
しかし実はそうではありません。
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たとえばファーマーズ・マーケット。
日本で言う「産地直売所」に該当します。
混雑するニューヨーク。
マンハッタンには、野外のファーマーズ・マーケットが数カ所あります。
ニューヨーク郊外の農家が、野菜や果物、パンやジャム、蜂蜜などを持ち込み、テントを張ってそれらを販売しています。
健康志向のニューヨーカーには人気のスポットです。
観光スポットにもなっています。
ロサンゼルスの、セレブリティが行きかう映画の街、ハリウッド。
こういうところにも、テントが立ち並び、ファーマーズ・マーケットが出現しています。
都会のまんなかに、こつ然と農業が姿をあらわすわけです。
こうしたファーマーズ・マーケットは全米各地の都市に出現しているのですが、このこと自体が、アメリカに小規模ながら魅力的な農家が数多く存在していることの証です。
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たとえばCSA。
CSA とは、Community-Supported Agriculture(コミュニティ・サポーテッド・アグ
リカルチャー)の略で、日本語に訳すと
「地域社会に支えられている農業」
となります。
地域(コミュニティ)のまんなかに農園があり、たいてい有機農業をしています。
コミュニティの人々はその農園に「会費」を払い、それが農園の収入になります。
「会費」を払った人々は、農園から作物を平等にもらいます。
これが CSA です。
農園にとっては、地域の人たちから安定して「会費」がもらえるところがありがたい。
地域の人々にとっては、地元の農園の作物を食べられるのが楽しみ。
その年、その年で天候なども違うので、作物のできばえ(量・質とも)は一定ではありませんが、そのリスクはコミュニティ全体で負っています。
おかげで農園は安心して農業に集中できます。
こういう CSA は、北米に 1,000箇所くらいあるそうです。
このことも、アメリカに小規模で魅力的な農家が数多く存在していることの証です。
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このように、ファーマーズ・マーケットをのぞいたり、CSAを訪問したりしてみると、アメリカの家族経営的な小規模農場がいかに人々から支持されているかが見えてきます。
「ロカボア(LOCAVORE)」
という言葉をご存知でしょうか。
「地元で作られたものを食べる人」という意味の造語です。
アメリカは国土も広いので、「地元」といっても日本の感覚とは少し違いますが、半径100マイル(160km)以内のことを指すようです。
「ロカボア(LOCAVORE)」は、2007年にアメリカの流行語大賞(Oxford Word of the Year 2007)に選ばれました。
こうしたロカボアの人たちが、地元の小規模農場を支えている...。
これも、世界一の農業国アメリカの、一面なのです。

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