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アメリカ食通信

TITLE:アメリカ食通信Vol.3 多民族国家の料理創造力

御存じのように、アメリカは多民族国家です。
多民族国家であるがゆえに、アメリカではさまざまな国の文化が融合し、新しい文化が生まれています。
食の世界では、たとえばこんなことが起きました。

<ケイジャン料理>
ケイジャン(Cajun)とは、カナダ東部からミシシッピ川を下ってきたフランス系移民を指します。
彼らは現在のルイジアナ州ニューオリンズあたりに定住します。
このあたりはミシシッピ川の広大なデルタ地帯で、高温・多湿であり、病気の流行しやすい土地でした。
ケイジャンたちは母国フランスの料理を基本に、疫病予防のため殺菌効果の高いスパイスやハーブを多用するようになります。
さらに、ネイティブ・アメリカン、イギリス系移民、アフリカ系移民、メキシコ系移民らの料理の要素も加わり、もともとのフランス料理とはずいぶん違う、「ケイジャン料理」と呼ばれる「ピリ辛の」スタイルができあがっていきました。
フランス料理ではない、「ケイジャン料理」というカテゴリが生まれたのだと言えるでしょう。

今では、ケイジャン料理は全米各地で食べることができます。
シアトルの、あるシーフード・レストラン(※1)では、近海でとれたハリバット(オヒョウ)をケイジャン風に焼いたものが定番メニューでしたが、ピリ辛好きの僕はそれを目当てによく通ったものです。
※1「McCormick & Schmick's

<メキシコ料理>
メキシコ料理は、今では「アメリカの代表的な料理」だと言えなくもありません。
その証拠に、歴代大統領の好物はメキシコ料理です。
(註:「アメリカ食通信 Vol1 大統領の食卓」)

メキシコ料理は、アメリカに入ってきただけではさほど変化することはありませんでしたが、アメリカで活躍するフランス料理やイタリア料理などのシェフと出会ったことにより、急速に洗練されていきます。
バラエティも広がっています。
Tex-Mex(テクスメクス料理。主にテキサス州で見られるアメリカ風メキシコ料理。肉、チェダーチーズ、カイエンペッパーやクミンを使う)
New Mexican(ニューメキシコ州で見られるアメリカ風メキシコ料理。グリーンチリを使う)
Cali-Mex(キャリメックス料理:カリフォルニア州で見られるアメリカ風メキシコ料理。野菜や果物をふんだんに使う)
などなど。

ちなみに僕のもっとも好きなTex-Mex料理の店(※2)の1つはなんとアラスカにありました。
じつはアラスカにはメキシコ人が多い。
その証拠に、アラスカ・エアラインという航空会社は、毎日メキシコとアラスカのあいだを飛んでいます。
※2 Mi Casaレストラン。
ウェブサイトは残念ながらなし。州都Juneauの、空港のそばにあるホテルTravelodgeの中にあります。

<日本料理>
日本料理もずいぶんアメリカに普及しました。
昨年、ニューヨークの「MASA(※3)」という日本料理店がミシュランで三ツ星をとり、話題になりましたね。
客単価400ドルという店です。

日本食の模倣も増えました。
日本食は人気があるからというので、昨日まで中華料理店だったところが、看板を変えて今日から日本料理店を名乗り始めた、という例も少なからず起きています。
そういう店にいわゆるグルメな人々が入ることはあまりないようですが。

アメリカでの日本料理は、フランス料理がケイジャン料理になったような「変貌」をしているようでもなく、メキシコ料理のように地域別のバラエティが生まれたようでもありません。
(カリフォルニア・ロールのようなものが発明されたのは特筆すべきことですが)
日本料理の場合、そうした進化が起きるのはこれからなのかもしれません。

しかし、進化が始まるのはもう目前に迫っているような気がします。

その兆候を1つ、発見しました。
ふつう、高級日本食店をアメリカの大都市でオープンさせるのは、たいがいが日本人(日系人含む)です。
そういう店がオープンすると、その情報は日本人のネットワークを伝わり、最初に客としてやってくるのは例えば現地に駐在している日本の商社マンの方々で、彼らがその店を気に入ったら、取引先や友人のアメリカ人を連れてくる。
次にそのアメリカ人が友人のアメリカ人を連れてきて、だんだん賑わってくる、といった流れです。
ところが、2005年(だったと思います)にニューヨークにオープンしたある日本料理店は、客単価も300ドル以上という堂々とした高級店でしたが、店名も英語風、オーナーもアメリカ人(フレンチの店を経営していました)、板前さんもアメリカ人、客もアメリカ人ばかりという店でした。
グルメなアメリカ人で連賑わっていたにも関わらず、その店の存在を、当初、日本人は誰も知らなかったというのです。
高級日本料理店がオープンする、という情報が、日本人のネットワークでないところで、流れたのでした。

「日本人の知らないところで、高級日本料理店(※4)がオープンする」
このことは、アメリカ人がついに日本料理を自家薬籠中のものにしたことの、現れなのかもしれません。
だとすれば、これから新しい料理が創造されてくるのではないでしょうか。

※3ミシュラン三ツ星の日本食MASA

※4 Bouley
有名シェフ Bouleyさんプロデュースによる日本食店。現在閉店中なのですが、復活の噂ありとのことで今後の展開に注目です!



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