Home>週刊myfood>アメリカ食通信>アメリカ食通信Vol.1 大統領の食卓

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アメリカ食通信

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アメリカでは、ビジネスで成功した人が裕福な生活をすることに、「やましさ」というものはありません。
これに対し、日本では、ビジネスで成功した人が裕福な生活をすることに、どうやら抵抗感があるようです。

日本人が誰かを評するときに
「あの人は普段から『いいもの』を食べている」
という言い方をする場合がありますね。
これが誉め言葉であることは稀で、たいていはネガティブな意味に使われています。
「お金があるから豪勢な食事をしている(だから怪しからん)」
というニュアンスです。

ここでいう「いいもの」って何でしょうか?
多くの場合、それは値段の高いステーキ肉であったり、外国からわざわざ取り寄せた珍味であったりします。
「値段の高い、贅沢なもの」というわけです。

◆◆◆

さて、アメリカ合衆国大統領の食事を、日本人的な価値観でながめてみましょう。
大統領は日本的な「いいもの(怪しからんもの)」を食べているでしょうか?
ふだんホワイトハウスで何を食べていたのか、何人かの大統領について調べてみました。

「国が諸君のために何をしてくれるのかを考えるのはやめよう。諸君が国のために何ができるかを考えようではないか」
という演説で有名な民主党のケネディ大統領。
彼のふだんの食事はわりと質素で、かつ小食だったと言われています。
こういうものを食べていました。
朝食:オレンジジュース、ポーチドエッグ(落とし卵)、焼いたベーコン、マーマレード、ミルク、コーヒー
昼食:ニューイングランド風フィッシュチャウダー夕食はよく食べ忘れていたようです。

東西冷戦のさなか、中国を訪問して世界を驚かせた共和党のニクソン大統領。
ニクソン大統領が好んで食べたものは
「カッテージ・チーズにケチャップをかけたもの」
だったそうです。

ウォーターゲート事件で辞任したニクソン大統領の後をついだ共和党のフォード大統領。
彼の好物は、
* グレープフルーツ
* イングリッシュマフィン
* 紅茶
だったと言われています。

俳優出身で、「強いアメリカ」を目指した共和党のレーガン大統領。
レーガン氏の好物は、ジェリー・ビーン(キャンディの一種)だったとされています。
ジェリー・ビーン以外では、メキシコ料理がお好みだったとか。

20世紀最後の大統領、民主党のクリントン氏。
彼は高校時代にホワイトハウスを訪問し、当時のケネディ大統領と握手。
そのときに「自分もいつかは大統領になりたい」と思ったというエピソードは有名ですね。
そのクリントン大統領の好物ですが、
* チキンのメキシコ風(enchiladas)
* バナナやリンゴ
* 野菜と牛肉のスープ
といったものだったようです。

21世紀最初の大統領、共和党のブッシュ氏。
ブッシュ大統領のお好みは、メキシコ料理だったそうです。
正確に言うと「テクス・メクス料理」(テキサス風メキシコ料理)がお好みだったのでしょう。
(ブッシュ大統領はテキサス州の出身です)

こうしてみると、どの大統領もとりたてて驚くような「いいもの」を食べているわけではなさそうですね。
案外、ふつうというか、日本人から見ても好感のもてる質素さです。

◆◆◆

オバマ新大統領は、グルメであることが知られています。
ということは、彼こそは「いいもの」を食べるのでしょうか?

ここでもう一度「いいもの」について考えてみましょう。
日本人のいう「いいもの」とは、「贅沢なもの」とほぼ同じ意味でした。
さらには
「美味だけど、毎日そんな食事をしていると、そのうち痛風になる」
ものを指していたわけです。
つまり、
「贅沢だけど、健康には良くない」
ものでした。

結論からいうと、オバマ大統領はグルメで有名なのにも関わらず、「いいもの食い」ではありません。
グルメなのに「いいもの」を食べない。
とういうことなのでしょうか?

じつは、「グルメ」のありかた自体が、この10〜20年で変化してきているのです。
かつての「グルメ」は、美味なものを食べること=「美食」を意味していました。
美味ですが、カロリーが高かったり悪玉コレステロールが多かったりするものでした。

いまの「グルメ」は、だんだん健康的なものになってきています。
「ホールフーズ・マーケットやワイルド・オーツといった自然食品店に置いてあるような、オーガニックの食材を食べること」
「ジャンクフードは食べないこと」
「ホールグレイン(全粒粉)のパンを食べること」
といった概念に変わりつつあるのです。

すなわち、オバマ大統領は「いいもの」を食べるわけではありません。
しかし健康に気を使ったグルメです。
日本風にいうと「食育的な食事」をする大統領というわけです。

◆◆◆

アメリカ合衆国大統領の好きな食べものを調べていて、ひとつ発見がありました。
メキシコ料理の人気が、高いのです。

さきほど紹介したなかでは、
* レーガン大統領はメキシコ料理が好き。
* クリントン大統領は、チキンのメキシコ風(enchiladas)がお好み。
* ブッシュ大統領も、メキシコ料理を好んでいます。

新たに大統領に就任したオバマ大統領も、じつは自宅のあるシカゴにお気に入りのメキシコ料理店があります。
しかしそこはグルメのオバマ大統領。
ただのメキシコ料理店を選んでいるわけではありません。
「アメリカ料理界のアカデミー賞」といわれる「ジェームズ・ビアード財団アワード(賞)」を受賞している、ハイレベルなメキシコ料理店です。

オバマ大統領御用達メキシコ料理店
「Topolobampo」
445 North Clark Street, Chicago, IL 60610

世界のさまざまな料理を取り入れ、新たな味を創造し、大統領が好んで口にするほどのレベルに昇華させる...。
融通無碍(ゆうずうむげ)な精神を持つアメリカのお家芸であるように思います。
Topolobampoで出されるメキシコ料理はまさにその象徴だと言えるのではないでしょうか。

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