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クローズアップインタビューVol.32 その味が、なぜその土地に根付いたのかを考える 福田芳子さん

クローズアップインタビューVol.32 その味が、なぜその土地に根付いたのかを考える 福田芳子さん

クローズアップインタビュー第32回目はフィーストインターナショナル代表にしてフードプランナーの福田芳子さんです。食べることは生きること。しかし生命維持のためだけではないのが人間の食事であり、だからこそ食文化は生まれました。そんな食と食文化をいろいろなシーンでコーディネートしてきた福田さんに、知られざるフーズビジネス業界の舞台裏などを聞いてみました!



myfood:まず、フードプランナーというお仕事について教えてください。具体的にはどんなお仕事をされてるんでしょうか?

福田:飲食店のプロデュースやマーケティング、飲食に関するパンフレットなどの印刷物制作、厨房コンサルティング、有名シェフと店舗の仲介、メニュー開発、料理講師といったところでしょうか。その時々によって比率は大きく変わります。最近は店舗プロデュースが減って、印刷物が増えていますね。ここ数年はファーストフードチェーンのメニュー開発チームにも参加しています。

myfood:ファーストフードのメニュー開発ということは、CMに流れる新メニューのいくつかが福田さんプロデュースなんですか?

福田:大手のメニューは販売までに1年以上かかることも珍しくないんですよ。そこにはとてもたくさんの人たちが関わっています。私もその一人というだけです。試食を重ねて、テストキッチンでの販売実験もします。たとえば混雑した状況で4セットをテイクアウトする。それを持ち帰ったときに、中がどうなっているかまでチェックするんです。

myfood:そこまでですか! 一つの新商品の裏側で、たくさんのプロたちが試行錯誤してるんですね。

福田芳子福田:ファーストフードは購買層がとても広いから、メニュー開発にはとくに時間がかかります。もしこれが客単価1万円のレストランだったら、客層がある程度は絞りこめるのでメニュー開発もやりやすい。でもファースフードには、普段3万円の食事をしている人から100円玉を握り締めた子供まで来ますよね。そのすべてを意識しながら開発するのは本当に大変なことなんです。

myfood:聞くところによると、福田さんは過去にアメリカ系の大手コーヒーチェーンからスイーツ開発も依頼されたとか。

福田:そうですね。10年ぐらい前の話ですよ。アメリカのお菓子を日本で販売したいということでした。輸入規制の関係で本国の商品をそのまま販売することができない。だから国内で試作をしてみたけれど、あまり売れなかった。そこで私の会社に依頼が来たんです。

myfood:企業自身がすでに試作を繰り返したあとでは、もうやることもないような気がしますが。

福田:依頼を受けてから私も考えたんです。『アメリカのお菓子ってなんだろう?』って。でもはっきりイメージできるものがなかった。そこで関係者全員で渡米して、気になる現地のお菓子を片っ端から食べました。そして候補をいくつか絞り、それを再現することにしたんです。アメリカにCIA(Culinary Institute of America)というとても優れた料理大学があって、そこの先生に再現講習をお願いしました。

myfood:結局のところ、アメリカのお菓子とはなんだったんですか?

福田:一言で言えば家庭の味だったんです。ごく普通の粉に材料をざっくり混ぜて焼くから形もバラバラ。でも同じレシピを日本のシェフが作ると、良質の粉にムラなく材料を混ぜ込んで綺麗に焼き上げます。そうすると口当たりも味わいも見た目も全部アメリカではなくなってしまう。なぜそのお菓子がアメリカに根付いたのか、その食文化が持つ背景まで考えたとき、そのチェーンには形もバラバラで多少は焼きムラのあるお菓子の方が合うんだとわかりました。この経験はとても大きかったと思います。それからは海外で自分の口に合わない料理を食べたときも『なんでこの味がここに根付いたんだろう』と考えるようになったんです。そうしてその国の背景をイメージしていく。料理を作るとき、ただレシピをなぞっていくより、その背景や最終形をしっかりイメージできたほうが仕上がりは格段に違いますね

myfood:フードプランナーとは、そこまで考えるお仕事なんですね。そもそも福田さんは、どういうきっかけでこのお仕事に?

福田芳子福田:料理を教える人になりたくて料理学校を卒業しました。でも当時そんな仕事はほとんどなくて。卒業した学校にスタッフとして残ったり、食とは関係ない企業で働いたりしていたら、90年頃にフードプランニングの会社から誘われたんです。バブル期にたくさんの異業種が飲食業界へ参入してますが、そのプランニングをする会社ですね。できたばかりの会社で、私はメニュー開発が担当でした。それがきっかけだと思います。

myfood:当時と今では飲食産業もずいぶん変わりましたね。

福田:変わりました。なにより外食という選択肢が増えました。料理をするぐらいなら外で食べるという意識が普通になっています。外食産業の仕事をしている私がこんなことを言うのはいけないのかもしれませんが、やはり食事の基本は家庭です。これだけ外食産業が充実している今だからこそ、家庭料理の大切さをもう一度見直してほしい。調理師学校や短大の栄養士課などで教えることもありますが、最近は料理人を目指す人たちの味覚も意識も低いんです。なかにはご飯の置き場所がわからない人もいます。家庭の食事がしっかりしていなければ、しっかりした料理人は育たないし、ひいては外食産業も発展しません。

myfood:食事に対してもっと真剣になるべきだと?

福田:そうですね。そういう点でアメリカはすごいなと思うんです。いまアメリカは日本の食にとても興味を持っていて、去年は料理大学のCIAがイベントで日本のシェフ30人を呼びました。日本人に出汁のとり方や旨みの引き出し方を教わりながら、すごく盛況だったんです。アメリカで食事をするときにいつも感じるのは、彼らが食事を本当に楽しんでいること。そういう楽しい雰囲気は、味付け以上に料理を美味しくさせます。

myfood:アメリカ料理って定義が難しいとされますが、福田さんはどんなイメージをお持ちですか?

福田:融合かな。いろいろな食文化からいいところを引き出すのが上手ですよね。あと現地で食べて初めてわかったんですが、新鮮なアメリカの食材は本当に美味しい。とくに野菜の力強さは驚きました。あれは素材の味だけでも立派なアメリカ料理といえるでしょう。

myfood:最後にフードプランナーとして今後の豊富を聞かせてください。

福田芳子福田:老人ホームや病院食のメニュー開発もしてますが、レシピよりも現場で調理する栄養士さんたちの意識変革が重要だと痛感しました。大量調理はこれが限界という思い込みや、「いままでこうだったから」という考え方。こういうのも家庭での料理環境が影響してると思うんです。老人や患者さんたちにとっては、それが家庭の食事なのに。だから外食を楽しみつつ、家庭での料理もしっかりするような環境になってほしい。そのお手伝いができたらいいなと思っています。