クローズアップインタビュー第三回目ゲストは世界料理サミット2009東京テイストアメリカ代表(今回アメリカ代表は彼と"Nobu"の松久信幸氏の二人)として来日したAlineaのグラント・アケッツ氏。分子料理界のプリンスと呼ばれる彼は2007年、舌癌を患ったことを発表。一時的に味覚を失うも2008年、全米No.1シェフに贈られるJames Beard Foundation Awardを受賞。デモンストレーション前、myfoodのために特別に時間を取ってくれました。
myfood:お忙しい時間にありがとうございます。日本は今回初めてですか?
アケッツ:はい、初めてです。
myfood:日本の印象はいかがですか?
アケッツ:素晴らしいですね、何もかもが凄い!それから今回は京都にも行くことができるのでとても楽しみにしています。(因みに東京では壬生や日本代表としてデモも行った成澤氏のレ・クレアシヨン・ド・ナリサワを訪問。京都では俵屋に滞在したそうです)
myfood:さて今回、世界料理サミットのアメリカ代表に選ばれた気分はいかがですか?
アケッツ:とても光栄に思っています。たださっきオープニングセレモニーで他の代表のシェフ達と一緒に壇上に登って、改めて自分が若いということを感じました。(このインタビューは初日オープニングセレモニー直後に行われました。因みにアケッツ氏は1974年生まれの34歳)。若輩っていう感じかな?
myfood:若輩なんてとんでもない!
アケッツ:(笑)昨日のレセプションでもいいましたが僕にとって日本に来ることは一つのゴールでしたし、日本の食文化を探究するということを楽しみにしていました。今回来ることが出来てとてもよかったと思います。
また今回のサミットに際してコーディネータの結城さんとずっとやりとりをしていたのですが、結城さんから日本では僕の事を知っている人はまだまだ少ない(※1)ということを伺っていました。ですから今回日本に自分や自分のレストランを紹介する機会にしたいと思っています。
(※1)因みにアケッツ氏の来日は今サミット最大の話題で取材の申し込み数も一番だったそうです。
myfood:先ほど日本にくるのが一つのゴールだったとおっしゃいましたが、アケッツさんはご自分のレストランで日本の食材を随分と使われていますね。またそれらを英語で表記せず、日本語をローマ字にしたかたち、例えば唐辛子を togarashi、湯葉を yuba といった形で明記されていますがこれはどうしてですか?
アケッツ:お店で使っている材料は日本由来のものであればそのままを表現をし、アメリカナイズせず、そのつど日本語で紹介し、お客様には説明(※2)するようにしているんです。
(※2)今回各国代表のデモンストレーションの中でアケッツ氏は唯一、サービスの人間とお店のデザイナーと共に登壇。彼らが作りだす空間のすべてを体感し味わってもらうことも含めてAlinea(アリニア)の料理であるということを発表しました。
myfood:先ほど、来日は初めてとおっしゃっていましたがなぜアケッツさんは日本に興味を持たれたのですか?
アケッツ:料理哲学の観点からでしょうか?文化からより多くのインスピレーションを得るという「食の哲学」のがあり、そこに自分達との共通点を感じました。また日本料理や日本の素材をみたときに日本には文化があるし、想像的なものをもっていると思う。構築、構成に対しても詩的な面があるところを尊敬しており、それをもっと取り入れたいと思っています。
myfood:ありがとうございます。ところで今回、何かアメリカ食材は使われていますか?
アケッツ:僕がデモをするレシピの中にスウィートポテトがあるのですがこれはとてもアメリカ的な一品です。サツマイモは日本のみなさんも普通に食べる食材でしょう?今回、東京に来て焼きいも屋さんを見たのですが、その時に日本のみなさんはサツマイモをどういう風に食べるのかとても興味があって、アテンドの人にどんな風に食べるのか?どんなたれをつけるのか?とたくさん聞いてしまいました。
myfood:同じ食材でもところが変わると食べ方が変わるから興味深いですよね。ところでアケッツさんはアメリカの食文化に対してどういった見解をお持ちですか?
アケッツ:まだまだ若い文化ですね。みんなに「アメリカ料理って何?」って聞かれるけれどもとても難しい質問。他の国の料理みたいに調理法も確立していないし、他のどこの国と比較しても若い。独自のクッキングスタイルは定義できていないと思う。アメリカは100年の歴史の国(※3)で若いし、まさに人種のるつぼ、「メルティングポット」といわれているように様々な他の国々からの料理の影響を受けていると思う。そういった意味でももっと成熟していくだろうし、「アメリカ料理はこうである」、という自分たちのスタイルを見つけていかなくてはならないと思っています。
(※3)あくまでもアケッツ氏の発言によるものであり、公式の建国年数を指すものではありません。
myfood:アケッツさんには「その姿」が見えていますか?
アケッツ:そうですね。アリニアの状況を考えてみても世界中の影響を受け続けている。いろいろな材料を活用してアメリカで工夫していく、活用していくということをこれからも僕達は続けていくんだと思います。まだまだオープンな状態、何についてもいくことを継続していく段階にいると思います。もし"アイデンティティは何か?"ということをいうのであれば「アイデンティティがないのがアイデンティティ(笑)」。
myfood:(笑)それはとても興味深いですね。ところで「アリニア」というのはどこから付けられた名前なんですか?
アケッツ:「改行」という意味の記号の名前です。新しい考え、思想の始まりという意味。
myfood:そうなんですね。そう云われて考えるとアリニアのHPのデザイン(※4)にはそういったニュアンスを感じるところがありますね。
(※4)アリニアはシェフのアケッツ・グラント氏の意向を100%表現するためにHPはもちろんのこと、インテリア、テーブルコーディネーション、食器の一つ、一つが総合プロデュースデザイナーのMartin Kestner氏によって監修、デザインされています。
ところであなたが独立の際にご自分のレストランを開く場としてシカゴを選ばれたのはなぜですか?
アケッツ:まずトリオ(※5)でのキャリアが既にありましたからシカゴでお客様、批評家、そしてメディアとのつながりが出来ていたこと。それから実はNYやサンフランシスコといった都市は芸術やファッションについては前衛的なものに非常にオープンマインドですが、料理については意外と保守的なんですね。そういった意味でシカゴには僕のスタイルを受け入れてくれる土壌があったことも大きな要因です。そういった意味では独立する際ではなく、カルフォルニアの店をやめて次にどこにいくか?を考えた際に全米をリサーチして行き先をシカゴに決めたところに僕の土壌がシカゴになった理由がありますし、これらもろもろのことを考えると敢えて離れる必要がなかったともいえます。
(※5)トリオはアケッツ氏がカルフォルニアのフレンチランドリーを辞めた後、料理長として就任したシカゴのレストラン。
myfood:NYやサンフランシスコが料理においては保守的というのはちょっと意外な感じがします。ところでアケッツさんはいままで数々の賞を受賞されていますが、今まで受賞された中で一番嬉しかった賞は何ですか?
アケッツ:今までいただいた賞はすべて僕にとって光栄なものであり、大切なものです。ただお店全員にとって意味を大きくもっている賞といいうとグルメマガジンNo.1レストランに選ばれたこと。実はアリニアを開店する2日前に55人のスタッフ全員を集めてスピーチしたんです。その際に僕が語った夢が「目指すところは全米1位になること」。そしてそのことが叶ったのが18か月後だったんですね。そんなに早くかなうと思わなかったし、あの賞はメンバー全員にとって意義深い賞だと思っています。
myfood:素敵なお話ですね。さて先ほど、日本に来ることがゴールだったとおっしゃっていましたが、それも今回叶われて、次はどこに向かっていかれますか?
アケッツ:そうですね、今回の経験から更なるエネルギーを得て、自分のお店に戻ってなにをするか?日本で学んだことやインスパイアされたことを再構築することが責任だと思っています。
myfood:なるほど!楽しみですね。では最後にメッセージをお願いしたいのですが、あなたの舌癌との闘病、そして克服と、その後に全米No.1シェフとして賞を受けられたことというのは料理人だけでなく、いろんな場面で今、マイナスの環境や気持ちでいる人に勇気を与えたと思います。そういった観点から何かいただけますか?
アケッツ:自分の体験からいうと癌いう診断があって治療にはいっていくときに、僕はそのために自分にとって最も大事なものを失うかもしれないというショッキングなことだったんだけれども、でもキッチンで働きつづけたんですね。その際、周りの人はなぜ働くのか?と聞いたのだけど、僕は日常を変えない、自分のやっていることをやり続けるとうことをしたからこそ、病気や精神的なショックを乗り越える助けになったと思います。なので今どんな状況にあっても気落ちしないで、なるべく自分らしく生きることが何か訳に立つことにつながると思います。
myfood:デモンストレーション前のお忙しい時間に本当にありがとうございました。今夜のデモ、楽しみにしています。
アケッツ:いえいえ、こちらこそありがとうございました。
今回、アケッツ氏が世界料理サミットに招聘されるにあたっては世界最高峰のレストラン、エル・ブリのシェフであるフェラン・アドリア氏と前myfood事務局長である服部栄養専門学校の服部幸應先生の強いプッシュがありました。そこでこのお二人からもアケッツ氏に対するコメントをいただきました。

myfood:今回のサミット開催にあたり、絶対にアメリカのアケッツ氏を招聘してもらいたいという強い希望がアドリアさん、あなたからあったとコーディネーターの結城さんから発表がありましたが、世界中に数多くの素晴らしいシェフがいる中でアケッツ氏をそこまで押された理由は何ですか?
アドリア:答えはとてもシンプルで、彼が疑いようもなく世界トップクラスのシェフの一人だからだ。彼は既に世界中に知られている素晴らしいシェフだよ。
次に服部先生。
myfood:料理サミット開催告知の記者発表の折から先生はアケッツ氏については思い入れ深く語っていらっしゃいましたが、実際に招聘されていかがですか?

服部:彼は病気に打ち勝って2008年の全米No.1シェフを受賞している。僕はそこに彼の素晴らしさを感じると共に何かしらハンデイをしょった人に対して勇気をくれる存在だという意味でも日本のみなさんに彼を紹介したかった。そういう意味で今回来日してくれて本当に嬉しく思っています。
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