クローズアップインタビュー第31回目はアメリカ大使館農務担当公使のジェフリー・ウィギンさんです。農務官として世界各地に赴任してきたウィギンさんは、現在3度目の日本着任中。日米の農産物貿易を長く最前線で見守り続けてきたウィギンさんに、これまでとこれからを聞いてみました。
myfood:ウィギンさんが初めて日本に着任したのはいつ頃ですか?
ウィギン:1984年です。日本の街を歩いても、あの頃は髪の毛を染めている若者があまりいなかった(笑)。30年近くが経って、今はずいぶん変わりましたね。
myfood:光陰矢のごとし(笑)。よろしければ、ウィギンさんのプロフィールからお話いただけますか?
ウィギン:アメリカのサウスダコタ州で生まれました。農業の盛んな州ですが、私の父は石油関連の仕事でした。そのためメキシコ、リビア、北アフリカなどに移り住んでいたこともあります。スタンフォード大学で哲学を学び、ハワイ州立大学で農業経済学を学びました。
myfood:哲学から農業へというのは、また大きく変化しましたね。
ウィギン:大学時代、インドネシアで暮らしていたことがあるんです。その日々の中で、農業の重要性を強く感じました。私はサウスダコタに生まれたけれど、農家ではなかった。だからこのとき初めて気づいたんです。幸いにといいますか、アメリカの教育システムは途中で専攻を変更することに柔軟でした。そうして農業経済を学び、インドネシアにリサーチャーとして5年ほど暮らしたあと米国連邦農務省・海外農業局へ入ったんです。30歳でした。今年で30年になりますが、その間に東京、シンガポール、大阪、モスクワ、ローマ、東京と赴任してきました。
myfood:哲学専攻の大学生を農業に目覚めさせるなんて凄いことです。当時のインドネシアについてもう少し聞かせてください。
ウィギン:1970年代半ばのインドネシアは緑の革命(green revolution)の真っ只中でした。緑の革命とは品種改良で収穫量の高い穀物を開発して、管理方法とともに途上国へ導入することです。だからインドネシアにかぎらず、インドやメキシコ、フィリピン、タイなどでも同じようなことは起きていました。高収量の穀物の中でも高収量米はミラクルライス(奇跡の米)と呼ばれていましたよ。テクノロジーが農業の発展に貢献した、非常にエキサイティングな時期でした。当時のインドネシアの農村は本当にエネルギッシュだったんです。
myfood:インドネシアで農業に目覚め、農務省に入ってからは日本との縁が深くなりましたね。
ウィギン:3回ですからね(笑)。いろいろな国で仕事をしてきた私にとって、今では日本がもっとも興味のある国です。娘は日本で生まれました。息子は日本で暮らした経験から今も日本語に堪能です。私だけでなく、家族にとっても日本は思い出深い国なのです。
myfood:初めての日本着任から約30年です。その間に日米の農産物貿易は大きく変化しましたか?
ウィギン:もちろん変わったこともあります。しかしまた、あまり変わっていないこともある。もっとも変わっていないのは、日本とアメリカの農産物貿易における関係がずっと密接であるということです。これは半世紀以上も変化していません。
myfood:それは例えば、アメリカからたくさんの穀物が輸入されて、それが日本の畜産業に大きく役立っているなどですか?
ウィギン:たしかにそれもあります。しかしそれだけではありません。全体的に見ても、日本とアメリカの農産物貿易は非常に密接なのです。なのにお互い誤解している部分が大きい。例えば一般的なアメリカ人に農産物貿易における日本の印象を聞けば「貿易に関して規制の強い国」とか「高品質を求めるので簡単には売れない国」などと答えるでしょう。しかし実際にフロリダのグレープフルーツはアメリカよりも日本で消費される量のほうが多い。一方で一般的な日本人にアメリカの印象を聞けば「日本の農業を壊滅させてしまう」などと答えるでしょう。しかし今、アメリカで日本の農産物はとても高く評価されています。以前から高品質であることは知られていましたが、最近は価格面での競争力も増しているからです。つまり、農産物において日本とアメリカは競争しているわけではないのです。お互いが補い合うことで、より豊かな食生活が実現しているのです。
myfood:今、日本はちょうどそういう問題を真剣に考える時期にきています。
ウィギン:日本の新聞にはよく食料自給率の記事が載ります。この食料自給率について考えてみましょう。戦後、日本の食料自給率は下がる一方です。なのに食生活はどんどん豊かになっています。それはなぜでしょう。一つには日本の生産者が優秀であり高品質な農産物を生産していることがあります。そしてもう一つは日本が信頼できる供給元から十分な輸入をしているからではないでしょうか。食料供給システムを考えたとき、この2つはどちらも大切です。どちらか片方だけにすると非常にリスクを伴う。日本の食糧自給率を都道府県別でみると1位の北海道は100%を越えていますが、北海道のスーパーマーケットにも輸入品は並んでいる。アメリカも同じです。国として食料自給率が100%を超えていますが、日本を含む世界中から農産物を輸入しています。それぞれがお互いに貿易することで選択肢は飛躍的に広くなる。長く密接だった日米の農産物貿易は、総じてお互いになくてはならない関係なのです。
myfood:今後もそれは変わらない?
ウィギン:変わらないでほしい。でもそのためにはお互いに自国の経済成長を維持発展させていかなければなりません。ああ、それと良い意味では変化していくかもしれませんね。さきほど日本の農産物がアメリカで再評価されているという話をしましたが、具体的には和牛や加工品においてです。しかし最近、とても面白い日本の農産物を知りました。鯉です。
myfood:鯉って淡水魚の? アメリカでは鯉をよく食べるんですか?
ウィギン:食料としてではありません。ニシキゴイ。観賞用です。
myfood:錦鯉って農産物ですか? あ、そうですね。養殖されているから畜産業のようなものですね!
ウィギン:そう。しかもニシキゴイって安くないよ(笑)。なのに日本で生産されるニシキゴイの70%は海外に輸出されているそうです。新潟で生産者たちに会いました。みんな40歳くらいで若い。もっと生産量を増やさないのかと聞いたら、増やす予定だし場所も確保してあると。これはあくまで一つの可能性ですが、そうして若いエネルギッシュな生産者たちがいるという事実はとても良いことです。
myfood:競争ではなく、お互いが補い合うんですね。
ウィギン:そう。それがみんなの生活を豊かにするんです。
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