2015年10月29日、表参道ヒルズスペースオーにて「オーガニック・デイ・ジャパン」が開催されました。事前申し込みによるセミナーと並行して、アメリカ産オーガニック製品を中心としたオーガニック・マーケットも賑やかに展開されました。

セミナーは大きく分けて3部の構成です。「シニアライフスタイルセミナー 生命力と長寿の秘訣 オーガニック」と題した第1部では、オーガニック(有機農法)について、またオーガニックで活性化される生命力とアンチエイジングについての情報などを、服部学園理事長の服部幸應氏、女優の工藤夕貴氏、『オーガニック電話帳』編集人の山口タカ氏がそれぞれの立脚点からスピーチ。第2部の「教育セミナー アメリカの最新情報について」では、オーガニック・トレード協会のモニク・マレズ氏、カリフォルニア大学バークレー校バークレー・フード・インスティチューツ政策担当部長のニーナ・F・イチカワ氏が登壇。第3部の「ヨガレッスンとオーガニックライフスタイルの提案」ではヨガインストラクターのサントーシマ香氏を講師とし、ヨガマットを敷き詰めたフロアのなかで思い思いのウェアをまとった参加者が"心と体、魂とつながるヨガの世界"へと導かれることとなりました。
アメリカ大使館農産物貿易事務所所長レイチェル・ネルソンの開会の辞に引き続きスタートした、第1部の「シニアライフスタイルセミナー」に注目してみましょう。

朝早くから熱心に詰めかけた聴衆の前に、まず登壇されたのが服部幸應氏。レイチェル・カーソンの名著『沈黙の春』を紐解きつつ、農薬と食物連鎖の関係についてご説明いただきました。かつて農薬DDTやDDDが多くの鳥に影響を及ぼした過去をふまえ、われわれ人間が繰り返し食べて細胞を活かしてくれる食物の選択や、化学肥料を使わない食生活をいかにして進めるべきかを具体的にお話しいただきました。日本ではJAS法のもとで、3年間化学肥料を使わないことで初めてオーガニックと認定される基準があります。しかし加工品を含め、わずか0.28%しかオーガニック商品が存在していないのが日本の現状なのです。安心安全をあくまで追求していくためにも、さらなる基準作りに日本政府に働きかけたい、との服部氏のご意見でした。 また、2005年に立法された食育基本法にも携わられた服部氏は、日本における(1)選食能力(2)家庭食育(3)食糧問題の3点にも踏み込まれ、サスティナブルな社会の形成、バイオダイバーシティ(生物の多様性)の保持などを提唱されました。スピーチの最後には母体修復ホルモンとして近年耳目を集めるオキシトシンについても言及されます。食育の基本は初乳以降に含まれるこのオキシトシンにあるとして、母と子の愛情あふれる絆づくりのためにこれをいかに活用すべきかと説かれました。ちなみにこのオキシトシンは母乳のみならず、親子のハグなどでも分泌されるとの服部氏談でした。スピーチは「人間がまともにならなければ、大切なことも伝えられない」と結ばれ、大きな拍手で迎えられていました。

2人目のスピーカーは女優の工藤夕貴氏。「オーガニックで育む美と健康」と題したスピーチで、国際的な女優業のかたわら選んだ"自然農法家"の肩書の理由についてお話しいただきました。芸能活動も華やかな29歳の時、突然「ガンかもしれない」と医師に宣告された工藤氏は、悩みぬいた結果、お金も名誉も要らない、ただ健康だけが大事であると気づきます。懇意にしていたカナダ人闘病者との交流から"You are what you eat(あなたは食べ物からできている)"という言葉を得たのち、直接口にする食物の安全性こそ肝要であると健康食の世界に入られたのです。フードピラミッドと生物濃縮(食物連鎖によって農薬等が濃縮されていく現象)について学んだ結果、「野菜こそ生物濃縮のない食べ物である」と気付いた工藤氏は、その名も「工藤式ナチュラルフード・ダイエット」を編み出します。いわく、ダイエットとはアメリカでは食事習慣。うまくやればリバウンドはないので、まず健康をめざし、複利的に減量できることが望ましいとします。そこで必要なのが、身体60兆の細胞が喜ぶ野菜、自然の道理にしたがって作られたものを食べること。これが病気と闘える身体の底力になるといいます。具体的に工藤氏が取り組んだ野菜作りは自然農法、種そのものの力のみを信じる農法です。地道な育みにより収穫されたその野菜は、酵素食のメソッドによって摂取されます。ご自身の健康不安に端を発し、大地と対話しながら獲得したヘルシーライフの提唱は、「家族の健康を守るのは自分なんです」というシンプルで力強い結びの言葉につながるのでした。

3人目のご登壇は『オーガニック電話帳』編集人の山口タカ氏。全国の生産者ひとりひとりと対話しながら編み上げたデータを、書籍の形で世に送る「オーガニックの水先案内人」です。山口氏がこの講演でまず取り上げたのが「噛む」ことの肝要さ。具体的に、生玄米をじっくり噛むと口中がどうなるのかをレポートされます。中国語で金津玉液とも呼ばれる唾液をうまく分泌させること、口中にあるツボを刺激すること、中国の気功で経絡(けいらく)を繋げるために唾液が利用されること、などの知識が披露されます。では実際に噛み続けるとどうなるのか。山口さんは、古川勝幸さんという生産者さんの漢方味来米(生玄米)を噛んだときの様子を以下のようにお話しされます。30回噛むと玄米がしっとりする。50回で水分が感じられる。80回で玄米が欠けはじめる。100回でアゴは疲れるものの唾液は出る。150回では玄米が唾液で砕け、糖化が始まる。そして200から250回で、玄米スープ状態となる。飲み込むと甘く、凝縮されたうまみが出る。このように何の味付けもない玄米が美味しいのだから、味付けをしたらまずいわけがないではないか、と山口氏は聴衆を沸かせます。話題は「本当に美味しいネギはお刺身でもいただける」「種の原産地を調べてほしい」と移ります。いわく、種を制するものは世界を制する。しかし日本はその前段階で、種そのものをほとんど作っておらず、自給率がとても低いのだと指摘します。自然農法の実践家さんの例を出しながら、種自体をその地域の土で育てると定着もよく、天災にも強く、微生物にも恵まれるので、ただただ美味しいのだと話されます。最後に会場のスクリーンいっぱいに映し出されたのは、微生物たちが星図のように散らばるさま。この微生物たちがたくさん生きる土の様子を「音」にひとつずつ当てはめたものを再生されたのですが、これがオーケストラの迫力でした。痩せた土からはさみしい音しか出ないのですが、豊かな土からはあらゆる音が洪水のようにあふれ、さながら交響曲のようでした。山口氏は、言葉と写真と「音楽」という、さまざまな手法を使って聴衆の心を打つのでした。
文字通り三者三様のおもむきあるスピーチを味わったmyfood編集部は、オーガニック・マーケットにも目を向けました。USDA認証のアメリカ産オーガニック製品も数多く並び、商品の詳細な出自について熱心に質問されるお客さまの姿もたくさん見られたことが印象的でした。展開されていたのはウォルナッツ、レーズン、プルーン、クランベリーなどの種実類や、オーガニック製法のビール、12種類以上の有効栄養成分を含む食品「スーパーフード」の商品、砂糖よりも甘い甘味料、スイーツ、チョコレート、ワインなど多岐にわたります。なかでも厳格な基準に基づき作られたオーガニック・ワインは、ソルビン酸がゼロのため頭痛を引き起こしにくい、ありがたくも美味しいお酒でした。
早朝から夜まで、さまざまな趣きあるセミナーとマーケットに彩られた、まじめで美味しいイベントでした。