Home> 特集記事> 季節のイベント 2015.11_02

レイチェルさんのサンクスギビング



日本人にとってのお盆やお正月のように、アメリカ人にとって最も重要な祝日が11月のカレンダーには記されます。11月の第4木曜日と決められた、その日こそが「サンクスギビング(感謝祭)」。1620年11月に信仰の自由を求めたイギリスの清教徒(ピューリタン)たちがアメリカに降り立ってから1年後――。彼らの荒野における過酷な生活を助けつつ受け容れたネイティヴ・アメリカンたちとの平和条約が締結され、大地の恵みやネイティヴたちへの感謝を伝えるために始めたお祭り、それこそが、サンクスギビングの原型とも言われています。歴史については諸説があるものの、現在もなお「食の恵みへの感謝を伝える」というメッセージこそ、アメリカ人にとって大切な想いとして息づいていることは確かなのです。

アメリカ農産物貿易事務所所長のレイチェル・ネルソンさんさて今回のmyfoodは、日本人にはまだあまり馴染みのないこの祝日のリアルな過ごし方について、アメリカ農産物貿易事務所所長のレイチェル・ネルソンさんに伺ってみました。Hi、レイチェル!

myfood: レイチェルさんはどんなお仕事をなさっているんですか?

レイチェル: 一言で言うと、アメリカの農産物や食品、飲料などを日本市場に紹介するお仕事をしているわ。

myfood: 今回のmyfoodは、アメリカ人にとって個人的なサンクスギビングの過ごし方を伺いたいと考えているんです。レイチェルさんの場合、今年はどのように過ごされるんでしょうか?

レイチェル: まず前置きしなければならないのは、わたし自身が海外生活10年目を数えるため、伝統的な過ごし方とは限らない、っていうことね。もちろん伝統についてはおいおいご説明するとして......。今年はね、「段階的サンクスギビング」というシステムのパーティを予定しているの。どんなものだか想像がつくかしら?

myfood: 「段階的サンクスギビング」。なんだか秘密めいて、わくわくする響きですね。

サンクスギビングパーティーレイチェル: これはアメリカ人のわたしにとっても、新しい試みなの。一般的に、パーティというのはホストの負担がとても重くなるものでしょう? 特に今回のパーティは30人ぐらいが参加するからとても大変。そこでみんなで責任分担することになったのよ。具体的にはね、前菜をAさん宅に数人で持ち寄ってまず乾杯。それからみんなで移動して、主菜担当の数人がBさん宅に持ち寄りフードを盛り付けて、2番目の乾杯。甘いものが欲しくなったらまた移動して、デザート担当が用意をしたCさん宅でさらなる乾杯。30人でラリーしながらフルコースを完成させていくのよ。ポットラックパーティの進化版、と考えてもらってもいいわね。

myfood: そこまで大がかりなイベントとなると、連携を取るのも大変ですよね。やはりメールや電話などで「会議」されているんですか?

レイチェル: あはは、そこは今時。facebookの非公開グループ機能やLINEを大いに活用しているのよ。

myfood: レイチェルさんのパーティは、先鋭的な例なのでしょうね。それでは普遍的、伝統的なサンクスギビングの過ごし方を教えてもらえますか?

サンクスギビングの料理レイチェル: アメリカ人にとってサンクスギビングとは1621年から始まるもっとも古い記念日であり、もっとも重要な日なの。今でこそ「みんなで食べよう」というテーマが「食べ物に感謝しよう」と変わりつつあるとはいえ、ほとんどの人間が古い家族のもとに集まって、ほぼ毎年変わらない場所で顔を合わせ、変わらない食事をとるものなの。とにかく集まる、ということが大切なので、11月の第4木曜をめがけてアメリカ中が移動ラッシュになるものなのよ。そして家族が集まると、母親は一日中キッチンに籠もって、家じゅうに美味しい匂いを振りまくの。男性たちはテレビ放映されるフットボールのチャンピオンシップに釘づけとなって、スローな食卓を待ち望むのよ。そしてお腹がぺこぺこになった15時ごろからお食事がスタート。ゆっくり会話を楽しみながら一日を過ごすんです。

myfood: その素晴らしい一日には、どのような食べ物が食卓に並ぶんでしょうか?

レイチェル: 1年のうち、この日にしか並ばない料理ばかりが作られるの。スクァッシュ(オレンジかぼちゃ)、グレイビーソースを添えたターキー(七面鳥)、スタッフィング、グリーンビーンキャセロール、こうしたものが一日かけてじっくり提供されるのよ。

サンクスギビングでのターキーmyfood: 特に昨今はターキーの作り方もものすごく進化しているのだとか。

レイチェル: 1621年にマサチューセッツでネイティヴ・アメリカンの方々とともに食したその日から、ターキーこそがこのサンクスギビングのための最も重要な食べ物であることは間違いないわね。だからこそさまざまなレシピが編み出されてきたんです。伝統的な作り方だと、ターキーをじっくり焼き上げながら溢れる肉汁を何度も何度もすくいかける......、という手間と時間を要していたのだけれど、それが最近ではスペシャルなバッグにターキーをしまって煮汁を中に閉じ込める作り方、特製注射器で肉汁を直接ポンプする作り方、ターキーフライヤーと呼ばれる専用マシンで揚げる作り方、などなど、あらゆる知恵が出回っているのよ(笑)。

myfood: サンクスギビングの歴史も、「家族」の有り様や社会変革とともに変わってきていることと思います。レイチェルさんから見て、この日の意義はどのように移り変わっていると思われますか?

サンクスギビングでの料理レイチェル: 第一に「みんなでご馳走を食べよう」という趣旨が「食べ物に感謝しよう」と変わり、そして今は「食べ物に感謝"すべきだ"」と変遷しているように感じます。そして家族そのものの有り様も、大きな家族から小さな家族に至るまで、あらゆるところにバリエーションがある。もちろんさまざまな国の歴史を持つ人々にとっては背負う文化背景も違うので、捉え方も変わるわよね。たとえばこの日は全米中のレストランがチャイニーズのお店などを除きほぼクローズとなっていたのだけれど、ここ数年では「サンクスギビング料理のケータリングサービス」や、レストランそのものを特別メニューの提供という形でオープンさせる向きも見られるようになったのよ。

myfood: サンクスギビングの翌日を「ブラック・フライデー」と呼び、ディスカウント商戦のスタートが切られるようにもなりましたね。

レイチェル: 早いところでは木曜、つまりサンクスギビング当日の夜からクリスマスに向けたショッピングのために行列を作る人々も現れはじめました。ここ10年ほどで顕著になってきたこの事象には、米国内でも賛否両論なのが現状なの。

myfood: 時代は移り変わるとはいえ、「感謝する」心を確かめ合う大切な日、というテーマは変わらぬものであってほしいですよね。

レイチェル:アメリカ人にとってサンクスギビングは家族の絆を感じる一日です。わたしの家族の場合だと、食事の前に一人ずつが「今年は〇〇について感謝します」と一言スピーチすることを習慣にしていたわ。家庭において何かに感謝する心を持つ、ということが当然の考え方として共有されていたわけで、年月を経た今もなお、素敵な思い出となっているんです。



★★レイチェルさんのサンクスギビング・レシピ その1★★

「ローステッドガーリック・マッシュポテト」
ローステッドガーリック
サワークリーム、米国産冷凍マッシュポテト、チェダーチーズ、ブルーチーズ、塩

(1) 米国産冷凍マッシュポテトを解凍する
(2) サワークリームを混ぜ入れる
(3) オーブンで柔らかく熱したローステッドガーリックを混ぜ入れる
(4) チェダーチーズ、ブルーチーズを上に乗せ、余熱したオーブンで温める



★★レイチェルさんのサンクスギビング・レシピ その2★★

「サンクスギビング・スタッフィング」
食パン(コーンブレッド、小麦パンなどどれでも可)、ターキーの煮汁、りんご、セロリ、玉ねぎ、マッシュルーム、バター、にんにく、お好みのスパイス(ローズマリー、セージなど)、アーモンド、レーズン、クランベリー

(1) スライスした食パンをひと口大にカットして一日ほどおいておく
(2) バターを入れた深鍋に、にんにく、玉ねぎを入れてほどよく熱する
(3) (2)の鍋にりんご、セロリ、マッシュルームを入れて炒め、よく火が通ったところでターキーの煮汁を入れる
(4) 鍋が煮立ったら(1)の食パンとアーモンド、レーズン、クランベリーを入れて蓋をする
(5) スチーム効果でパンが柔らかくなったところで簡単に混ぜ込む

レイチェル「そのままでも美味しいですが、クリスピーな食感がお好きな方は(5)をオーブンに入れて焼き目をつけてもよし、残りをターキーの中に詰めてローストするのもよし、ですよ!」










IMG: レイチェルさんのサンクスギビング