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琥珀(コハク)の蠱惑(コワク)=クラフトビール!



「とりあえず」ではないビール志向!

クラトビール(イメージ)お花見の春、到来です。日本人にとっては節目の季節、歓送迎会や私的なもよおしなどで、お酒に触れる機会も増えるのではないでしょうか。人との縁を確かめ合うような、そんな媒介としてのファーストチョイスはやっぱりビール、という方も少なくないと思います。しかしながら近年では、「とりあえずビール」の、「とりあえず」感を排して、「こだわりのビール」を選ぶ向きも増加中。のどごし、コク、キレ、酸味など、各人の好みのバランスから探索する"自分好みの"クラフトビール(=地ビール)という選択が、全国的にも流行しているんです。このクラフトビールの潮流、実はビール大国アメリカにおける急成長に追随するものだということは、まだあまり知られていないかもしれません。 アメリカ大使館農作物貿易事務所マーケティングスペシャリスト・大塚雅之氏そこで今回は、アメリカにおけるクラフトビールの歴史と今後の展望について、3月に開催されたFOODEX JAPANでの「ワールド・ビア・フェスタ」セミナーにおけるアメリカ大使館農作物貿易事務所マーケティングスペシャリスト・大塚雅之氏のスピーチをもとに、レポートさせていただきます。





ビール大国アメリカの変わりゆく「品質志向」

アメリカのクラフトビール(イメージ)アメリカにおけるクラフトビールの定義は「年間生産量(=年間生産量が600万バレル未満であること)」「独立性」「伝統製法(=原料、製法の伝統性を保てるのならば、革新的な原料などを使って独自性を出してもよい)」の三つの要素に収斂されます。また小さなブリュワーには税法上の特例もあるため、それが業界急成長の大きな要因ともいえるのです。

クラフトビールの味わいの秘訣は、最終工程のフィルターをとてもゆるくかけているため。フルーティな香りと甘み、複雑かつコクのある切れ味の両面を持つのは、酵母菌が商品中に多く残留するためです。賞味期限の極端な短さも、その特徴といえるでしょう。

アメリカのビール市場の全体規模は、約1000億ドル(日本円で約11兆8000億円)です。前年比で約1.9%の減少ですし、ビール大国アメリカにおいても年々「ビール離れ」傾向があることは確かです。しかしながら全米ビール市場全体の分類に目を転じると、その総生産量のうち7.8%をクラフトビールが占めており、前年比ではなんと18%の増加となります。これまでの5年間で倍増し、また、クラフトビールを製造するクラフト・ブリュワリーの数も前年比15%増、雇用者数も11万人以上。アメリカ経済の一翼を担うこととなっています。端的に言って、大手メーカー製のビール消費量こそ減ったものの、一杯ずつにかける消費金額そのものは上昇傾向にあります。ビールはやがて"自分好み"の時代へと移り変わってきているのです。

なぜ近年、これほどまでにクラフトビールが急成長しているのでしょうか。景気の回復はもちろんのこと、消費者サイドからいえばそれは、アメリカ人特有の好奇心の強さ、新しいものへの欲求の高さが後押しをしていると言えるでしょう。現代的にはSNSやスマホをツールとして地域トレンドが発信されることをブリュワリーも熟知していることから、各地でビールイベントが多く開催され、さらなる消費者を生んでいるのが現状なのです。

アメリカのクラフトビール(イメージ)生産者サイドの努力も大事な要因です。意識の高いブリュワリー同士の交流により、小さなブリュワリーでも技術が向上、開発力の強化、品ぞろえのユニークさを誇るのが現状です。各地で行われるビールフェスティバルでの交流が企業マインドを高める機会になっていることも挙げられましょう。先進的で熱心なブリュワリーが多いのも、女性ファンや若い世代の獲得、拡大の大きな要因になっています。たとえばコロラド州デンバーで開催される全米最大のクラフトビール・フェスティバル「グレート・アメリカン・ビール・フェスティバル」は、3日間でおよそ5万人近くの来場者を数えます。来場者の平均年齢は34.5歳と若く、その4分の1が女性であることから、新しい世代の消費者がクラフトビールの成長を担っているともいえるでしょう。


自宅醸造の流行がセカイを変えた

ここでアメリカのビールの歴史を振り返ってみましょう。実はアメリカにおいて、1800年代はクラフトビールが全盛でした。1920~33年の禁酒法時代を経て、第二次世界大戦後、ライトボディなラガービールが市場を席捲するまで、アメリカではさまざまなクラフトビールを飲むことができたのです。しかしその後、大手ビール企業が小さなブリュワリーを次々と併合したため、クラフトビールは数少ない愛好家や地域の支えがあって、各地に火を灯すのみでした。転機となったのは1978年。アメリカではノン・コマーシャルのホーム・ブリューイングが合法化されたため、自作キットを使った「自宅用ビール」が流行します。ここから独自性を追求したクラフトビールが市場の牽引役ともなっていったと言えるでしょう。

ビール(イメージ)日本においては残念ながら酒税法が幅をきかせているため、アメリカのような自作キットでの自家用醸造がいまだできていないのが現状です。「もしも」の話になりますが、もしも日本でも自家用醸造ができる世界になったのなら――。さらなるクラフトビール・ブームが巻き起こることは間違いないでしょう。そんな未来を夢想しながら、まずはこだわりの一杯を注いで......「乾杯!」。




こだわりのクラフトビール、試飲しちゃいました

ここで、2015年のFOODEXアメリカパビリオンにおいて、試飲のために馳せたクラフトビールを紹介しましょう。
2015年のFOODEXアメリカパビリオンにおいて、試飲のために馳せたクラフトビールを紹介

■Sierra Nevada Pale Ale(シエラネバダ・ペールエール)
Sierra Nevada Brewing社
http://www.naganotrading.com/

グレープフルーツやシトラスのアロマフレーバーが感じられる爽快系テイスト。1980年の創業時から醸造されているペールエール。ペールエールは現在でもブリュワリー総売り上げの60%を占める人気商品であり、100%天然原料、最高級モルト、ホールホップ、自家製酵母天然水を使いボトルコンディションされています。カリフォルニア州チコで創業。


■Modus Hoperandi(モダス・ホッペランディ)
SKA社
http://www.ezo-beer.com/index.htm

昔ながらのビターエール、グレープフルーツ、パインなど柑橘系の風味を感じます。濃い目の黄金色をしたIPA(アメリカン・インディアン・ペールエール)。ホッピーで苦みが強いものの後味はスムーズ。スパイシーな料理と合わせるのにも向いています。スカ・ミュージック好きの二人の男性が研究を重ね、瓶のラベルも愉しいビールを作ることとなりました。コロラド州デュランゴで創業。


■Castaway IPA(キャスタウェイIPA)
Kona Brewing社
http://www.konabeer.jp/

ホップの強い苦みと香りが特徴的。モルトの旨みが感じられるフルボディ・ビール。1994年、キャメロン親子によってハワイ島カイルアコナで醸造を開始した「コナビール」。現在ではハワイでのシェアを不動のものとしているため、旅行好きな日本人にも馴染み深いものかもしれません。


■Blue Moon Belgian White(ブルームーン・ベルジャン・ホワイト)
Blue Moon Brewing社
http://www.molsoncoors.jp/

シトラスの香りあふれるフルーティな風味、軽くスパイシーな小麦とオーツ麦のアロマ。コリアンダーとオレンジの引き締まった香味に、ほのかな甘みを残すクリーミーなミディアムボディ。より深いフレーバーを残すために濾過処理をしないため、濁りが残されています。1995年にコロラド州デンバーにて創業。


■Anchor Steam Beer(アンカー・スチーム・ビール)
Anchor社
https://mitsuifoods.co.jp/mfp/import/anchor/07278358.html

ラガー酵母をエール酵母のように常温で発酵させることにより、ラガー特有のコクと麦香がありながらもエールのような華やかな香りも兼ね備えています。「アメリカンクラフトビールの原点」とも呼ばれる一品。1896年サンフランシスコにて創業。


■White Rascal(ホワイト・ラスカル)
Avery Brewing社
http://www.aqbevolution.com/

コリアンダーとオレンジの香る、日本人好みのするベルジャンホワイト。無濾過の酵母も愉しめます。エイヴリー社は、コロラド州の5大ブリュワリーの一つにも数えられ、アメリカン・クラフトビールファンからの支持も強いようです。1993年創業。









IMG: 琥珀(コハク)の蠱惑(コワク)=クラフトビール!(イメージ)