アメリカのワイン産地と言えばカリフォルニアのナパ、ナパと言えばカベルネ・ソービニヨンと連想される方も多いと思います。でもカリフォルニアのワイン造りはとても奥が深く、広い地域で様々なぶどうが栽培されているのです。
ナパを後にしてサンフランシスコに滞在後、私はパソロブロス という街に行きました。カリフォルニア沿岸を縦断するフリーウェイ101号線上のサンフランシスコとロスアンジェルスのちょうど中間に位置します。この近郊はここ十数年でワイン産地として急成長を遂げているところです。
ホテルでチェックインをすると受付の若い男性に「ここはとても小さくて静かなところ、のんびりするにはちょうどよい」と言われました。なるほど、街の中心部は十分歩いて回れます。もしかしたら何もないところなのかしら、と思いながら訪れたのはハーマン・ストーリー(Herman Story Wines)というワイナリーでした。
こちらは自らの畑は持たず、ぶどうは買い取ります。 カウンターに10人もお客さんが集まればいっぱいになってしまうほどのテイスティング・ルームにはやはり犬がいました。お行儀のいい二匹のジャーマンヘアードポインターです。
ハーマン・ストーリーでは南フランスのローヌ地方で主力のぶどうを使ってワインを造っています。オーナーのラッセル・フロム氏は「カリフォルニアのセントラルコーストはローヌの品種を育てるには最高の土地だ」と言います。看板ワインはNuts and Boltsというシラー100パーセントの力強いワイン。私のお気に入りはヴィオニエとルーサンヌというぶどうを使ったTomboyと白ワインでした。「ローヌ種に多大な愛情を感じる」というフロムさん。ナパやソノマで主要な品種だったカベルネ・ソービニヨンやシャルドネのワインはありませんでした。
フランスと同じようにカリフォルニアでも広い範囲で土壌や天候に合う様々なぶどうを栽培しているのです。ワシントンやオレゴンなど別の州に行けば、例えばピノ・ノワールやピノ・グリなど、それぞれのテロワールに合った品種が栽培されています。
でもフランスとアメリカではワイン造りへのアプローチが違います。ワインライターの山本真紀さんによるとアメリカではワインを造りたい人は、まず自分が求める土地を探すことから始めることに対し、フランスは先祖代々受け継げられた土地を守る形でワインが造られることが多いとのこと。ボルドーの5大シャトーの一つシャトー・ムートン・ロートシルトもカリフォルニアに可能性を見出しロバート・モンダヴィとナパにオーパス・ワンを設立しています。
またアメリカではワイン造り にもハイテクが駆使され、人工衛星を使い土壌解析をして土地を探 すこともあるとのこと。最新技術を取り入れ科学的なアプローチをしているようです。
「ただナパは例外で土地はすでに飽和状態。畑の値段も高く、自然との調和を謳っていることから新たな開墾は難しく、新規参入も難しい」と山本さん。ワ インメーカーは新規就農者が受け 入れられるエリアで土 壌に合う品種を発掘することがカリフォルニアのワインを多様にしています。
パソロブロスのワインは濃厚でパワフルなものが多く、これは10年以上前に「カリフォルニアらしいワイ ン」として好まれたスタイルを求める生産者の 志向によるものだと山本さんは言います。
力強いワインを造るジンファンデルもこ の地域の主力のぶどうです。この地域のジンファンデルの造り手といえばターリー(Turley Wine Cellars)があり、日本でも知られています。他に日本でお馴染みのワインメーカーにはタブラス・クリーク(Tablas Creek Vineyard)やカストロ・セラーズ(Castoro Cellars)などがあります。



これまでカリフォルニアのワインはナパやソノマでしか楽しめないかと思っていましたが、その裾野はとても広いものでした。生産者の探求心、豊かな土壌と変化に富んだ気候がカリフォルニアのワインを世界のトップレベルに築きあげ、そこにはカリフォルニア料理とともに独自のワイン文化、食文化が育まれています。
文と写真: 藤田淳子
文と写真: 藤田淳子
