Home> 特集記事> 季節のイベント 2013.02_02

ワインが作るナパの文化



西海岸に住む友人に遊びに来ない?と誘いを受けたことをきっかけに、カリフォルニアのワイナリーを見てまわることにしました。カリフォルニアのワイン、そしてアメリカのワインといえばナパが有名な産地として思い浮かびますが、ナパに隣接しているソノマにも日本でもよく知られたワイナリーがたくさんあります。この地域の地図を見ると、たくさんのワイナリーがあり、どこをどう訪れたらいいのだろうとしばし考えてしまいます。これだけのワインの作り手がいて、どのくらいのワインが日本に輸入されているのだろう。そしてそのうちのどれだけのワインを私は知っているのかしらというところからワイナリー巡りが始まりました。

ぶどう畑クリスマス前のナパはとても静かでした。すれ違う観光客たちが「この時期に来てよかった。ゆっくりワインの試飲ができる」と言っていたのもうなずけます。ワイナリーの方と話をしたら、暖かい季節は観光客でかなり混雑し、週末は試飲をするのも「お願いします!」とスタッフを呼ばないとワインをついでもらえないということもあるそうです。冬はぶどうの木に葉がついていないので、ぶどう畑はさびしい光景ですが、ワインをゆっくりと試飲できることを思えば仕方ありません。

牛が放牧されている高原が両側に広がる道をのんびりと走りながら、お目当てのワイナリーへと向かいます。世界的に有名な観光地にもかかわらず、ナパもソノマものどかな風景。華やかな商業施設はありません。予約がとれないことで有名なナパのレストラン、フレンチ・ランドリー(The French Laundry)もとてもおとなしい一軒家のようです。

ワイナリーでは試飲をしてからワインが購入できるようになっています。試飲は有料で、一人10ドルから15ドルくらいで5~6種類のワインを試飲することができます。一定の額のワインの購入をすると試飲の代金は抹消されるところもありました。

嬉しいことに試飲は試飲用の小さなグラスではなく、ゆったりと大きなグラスを使わせてくれます。これにより香りや味をしっかり楽しむことができます。ワイナリーによっては予約をしないと中に入ることができないところも多いので注意が必要です。

日本でもよく知られているナパのワイナリーといえばオーパスワン(Opus One) 、クロデュバル(Clo Du Val), ロバートモンダビ(Robert Mondavi),フロッグスリープ (Frog's Leap),シェイファー(Shafer)などがあるでしょうか。先ほどナパには華やかな商業施設はないと書きましたが、ワイナリーに関してはちがいます。まわりの自然にマッチしたログハウスのような雰囲気の建物もありますが、ワインだけでなく建築もみてもらおうという意気込みのあるところも数多くあります。ダリオウシュ(Darioush)はペルシャ建築の宮殿を思わせるものですし、ベリンジャー(Beringer)はヨーロッパのお城のようです。

ソノマにあるジョーダン(Jordan)も広大な土地に立つ豪華なワイナリーです。ゲストルームも備えた建物はまるでフランスのシャトーのよう。ここでは赤はカベルネ・ソービニオン、白はシャルドネの二種類のワインしか作りません。こちらのワインテイスティングは予約をしないとできません。8名程度のグループが大邸宅に招かれたゲストのように個室に案内され、大きなテーブルでチーズとフィンガーフードと共にワインをいただきます。三種類のチーズのうち二種類がカリフォルニア、もうひとつはハードチーズでシアトルのものでした。チーズには一本のチャイブが添えられていました。チャイブとチーズを一緒に口に入れることでチーズにアクセントがついて、こんなチーズの楽しみ方もあるのかと思いました。私のお気に入りはカリフォルニアのカウ・ガール・クリーミー(Cowgirl Creamy)をいう作り手が作ったマウント・タン(Mt. Tam)というチーズでした。有機の牛乳から作られたこのチーズはバターのようにクリーミー。少しきのこのような味を含んでいて、しっかりとしたカベルネ・ソービニオンによく合います。

ランバート・ブリッジ(Lambert Bridge) の建物入り口とトラックの風景ジョーダン(Jordan)に比べるとランバート・ブリッジ(Lambert Bridge) は建物の入り口にトラックが止まっているなど、自然と調和したワイナリーです。広い敷地内にはピクニックのスペースがあり、犬と一緒にワインを楽しめるようになっています。ここのワイナリーでも大きな二匹の犬を飼っていて、敷地内を走りまわっていました。カリフォルニアのワイナリーでは犬を飼っているところが多く、その犬たちが毎年カレンダーにもなっています。

ランバート・ブリッジではワインの品質を維持するために生産量は少なめにしています。彼らのモットーはワインは食事にかかせないものであるけど、お料理の味の邪魔になってはいけないということだそうです。カリフォルニアのシャルドネは樽香が強く、バターやナッツ、キャラメルなどのニュアンスを特徴としますが、こちらのシャルドネはブルゴーニュ風におとなしめです。これもお料理を引き立てるためだそうです。

隣合わせのナパとソノマですが、気温が高めのナパでは一般的にカベルネ・ソービニヨンが育ちやすく、冷涼地域が多いソノマではピノ・ノアールが生育されます。例えばナパのダリオウシュのピノ・ノワールはソノマのロシアン・リバー・バレー(Russian River Valley)で収穫されたものです。ここを訪れたのはもう太陽が沈みそうなころ。朝からワインを飲んでいたので眠くなりそうでしたが、このピノ・ノワールのワインはしっかりとしたボディの中に目を覚まされるようなキレを感じました。

カベルネ・ソービニヨンは力強いワインになるので、しっかりとしたお肉料理に合います。ピノ・ノワールはそれに比べて軽めのお料理、例えば魚や鶏肉料理などに合うでしょう。ソノマにはリッジ(Ridge Vineyards)のようにカリフォルニア独特のぶどう、ジンファンデルで有名なところもあります。ジンファンデルもお肉料理によく合います。

鶏肉のコンフィとサラダカリフォルニアのワインと食文化を語るにはアメリカの料理学校CIA(The Culinary Institute of America)も欠かせない存在です。CIAのSt.Helena校の中にはレストランもあり、未来のシェフたちが腕を奮っています。観光客が少ない冬のナパでしたが、この日のレストランには大勢のお客さんがクリスマスツリーの前でランチを楽しんでいました。私が選んだものはあっさりめの鶏肉のコンフィとサラダ。メニューにはその日にシェフとなった生徒の名前が書いてあります。ワインは学校の近くにあるマーカム・ヴィンヤーズ(Markham Vinyards)のシャルドネでした。

このようにカリフォルニアではワインと食が一体となって観光客を楽しませてくれます。この後私はLAに向けて南下します。ナパやソノマを後にして、もうワイナリーツアーは終わってしまうのかと思いましたが、カリフォルニアのワイン産地はまだまだ続いていたのです。


文と写真: 藤田淳子








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